【転倒事故】施設における転倒と転倒予防について

活動していれば転倒は居宅でも施設でも、どこでも誰にでも起こり得ることです。特に、高齢者の転倒は、骨折へとつながりやすく、大きなリスクが伴うものです。中でも大腿骨部の骨折は、しばらくの間、寝たきり状態となり、筋力の低下をもたらします。このことは生活に介助が必要になってしまうことへの入り口です。そのため、なるべく転倒しないようにすることが自立した生活を維持していくために必要なことなのです。ここでは、少しでも転倒のリスクをなくすために、転倒の状況、要因、予防について学んでいきたいと思います。

目次

転倒の概要

介護サービス中の事故状況は、転倒、ずり落ち、転落、異食、誤嚥、誤薬、離設等、多岐にわたっていますが、中でも転倒が圧倒的に多いです。

事故の発生・発見場所は、居室内、廊下、談話室、トイレで、発生場面としては、自力歩行中、ベッドと車いす間の移乗中、椅子や車いす等からの立ち上がり時などが多くなっています。

事故発生の時間帯としては、1日の活動が始まる起床時からの午前中と夕方が、比較的発生しやすい時間帯です。

生活相談員

発生場所や発見場所、時間帯などは、施設環境や利用者の状況・状態などによって、各施設ごとの傾向が出てくるでしょう。

ケアマネジャー

そうですね。調査の集計結果は全体的な傾向をあらわしたもので、個別に見れば、各施設によって、違いがあるかもしれませんね。

生活相談員

ちなみに、私の経験では、発生・発見場所は居室とトイレ。時間は夜間帯が多かったように思います。

事故の結果(傷害の種類)については、骨折、打撲・捻挫、内出血、裂傷・擦過傷等となっています。

いずれの傷害であっても、日常生活に何らかの支障を伴いますが、中でも骨折は、それまで元気に歩いていた方が、歩行困難、寝たきりの状態になってしまったりと、利用者のADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)に大きな影響を及ぼすことがあります。

生活相談員

転倒といっても、いろいろなパターンがあります。歩行中に前のめりに倒れたり、立位時に膝が折れて横に倒れたり、バランスを崩して尻もちをついてしまったりなど。

ケアマネジャー

脚の筋力が低下していたり、小刻み・すり足歩行の利用者さんは、特に注意が必要ですね。薬の副作用なんかも注意したいところです。

生活相談員

そうですね。そして、転倒で怖いのは、やはり骨折ですね。腰椎圧迫骨折や大腿骨頸部骨折、大腿骨転子部骨折などがありました。あと、忘れてならないのは、頭部を打撲した場合です。事故直後は何の症状がなくても、ある程度時間が経過してから症状が現れる場合がありますので、特に様子観察が必要になります。

転倒した際は、必ずナースがボディーチェックを行い、痛みや外傷、出血の有無、手足の動きや意識レベルなどを確認し、対応についての方向性を示しました。

対応としては、様子観察、施設内での医療的処置、受診のいずれかになります。

生活相談員

生活相談員としては、事故状況について利用者家族へ報告するとともに、必要であれば関係機関へ事故報告書を提出します。

転倒の要因

転倒事故の要因について、利用者、職員、施設(居住)環境の面から見ていきます。

利用者の要因

  • 身体機能の低下:加齢や疾患による歩行能力・平衡感覚・筋力の低下など
  • 認知機能の低下:認知症などにより、周囲の状況を正確に把握できなくなる
  • 薬の副作用:眠気、ふらつき、血圧低下など
生活相談員

トイレでのズボンの上げ下ろしの際に、手すりにつかまって立っていただいていたところ、突然、膝折れでしゃがみ込まれたり、尻もちをついてしまわれたりなど、気をつけないといけないですね。

介護職員の要因

  • 人員不足:複数の利用者を同時に担当するため十分な見守りや介助ができないことがある
  • 経験不足:利用者の状態を正確に把握できず適切な対応ができないことがある
  • 知識不足:転倒予防に関する知識が不足しているため適切な対応ができないことがある
ケアマネジャー

特に、多床室の特養など、夜間帯では、複数のナースコールが鳴っていたり、ベッドから起き出して歩き回っている方がいらっしゃったりと、対応しなければならないことが重なり、すぐには駆けつけられないこともあります。

生活相談員

夜間帯は、例えば、夜勤者2人体制の場合、同時に3人以上の利用者からナースコール(離床センサーの反応)があった際は、優先順位を付けて対応せざるを得ないため、後の方が、かけつけたときには、既に転倒されていたということもあり得ます。

ケアマネジャー

施設で生活していく際のリスクについて、ご家族にもお話ししてご理解していただくことも大切ですね。

生活相談員

入所案内・説明の際、ご利用者の状況・状態によっては転倒リスクと転倒予防への取組みについて、ご家族へ説明し、ご理解とご協力をお願いしていました。

施設(居住)環境の要因

  • 施設(住居)の構造:段差、滑りやすい床、照明不足など
  • 福祉用具の不適切な使用:歩行器や車いすのサイズが合っていなかったり、適切な使用方法がされていないなど
生活相談員

介護施設として設計建築されていれば、構造上、特に問題になる所はないと思いますが、思わぬ所にリスクが潜んでいたり、後から持ち込んだ器具・備品などが事故発生の要因になったりすることも考えられますので、気をつけたいところです。

転倒予防の方策(対策)

利用者、介護職員、施設の三者が連携して、多角的な視点から方策(対策)を講じることが必要である。

  • 利用者への個別アセスメント:個々の利用者の状態を把握し転倒リスクを評価する
  • 転倒予防訓練:筋力強化やバランス能力の向上を目的とした機能訓練を行う
  • 環境整備:段差の解消、滑り止めマットの設置、手すりの設置など
  • 職員教育:転倒予防に関する知識や技術を向上させるための教育を行う

まとめ

転倒事故は、利用者の日常生活動作と生活の質に重大な影響を及ぼす可能性があります。転倒事故の要因は、身体的な衰えや環境など多岐にわたりますが、適切な予防策を講じることで、そのリスクを軽減させることができます。施設内の環境整備や利用者の身体機能の維持・向上を図る取り組みとともに、職員の継続的な教育と訓練が重要です。これらを総合的に実施することにより、施設における転倒事故の発生を最小限に抑え、利用者の安全と安心を確保することができます。




〔参考文献〕
「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」について
「介護保険施設における介護事故の発生状況に関する分析」三田寺裕治、赤澤宏平 社会医学研究第30巻2号
「令和4年度 介護保険事業者における事故報告集計・分析結果」江東区福祉課
「令和3年度 介護サービス事業者等における事故報告(集計・分析結果)について」志摩市
「頭をうった患者様へ(頭部打撲)後に注意すること」総合クリニック ドクターランド 幕張

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