介護施設の利用中に起こる事故(介護事故)の概要についてお話しさせていただきます。この投稿は、筆者が勤務していた埼玉県にある特別養護老人ホームでの体験(相談・介護・見聞など)をベースとしています。
介護事故とは
介護事故とは、老人福祉施設等におけるサービス提供の全過程において発生する全ての人身事故で身体的被害及び精神的被害が生じたもの(施設側の過失の有無を問わない)と定義します。
介護の現場では、利用者の身体や生命に関わることを「事故(介護事故)」として捉えていました。
具体的には、転倒・転落・ずり落ち等による骨折や受傷、誤薬、原因の特定できない皮下出血・裂傷などです。
介護事故の特性
介護事故には、次のような特徴があります。
- 多様性:事故の種類は多岐にわたり、原因(利用者の状態や居住等の環境、介護職員の対応など)が複雑です。
- 不可避性:利用者の状態や住居等の環境によって、事故を完全に防ぐことは困難な場合もあります。
- 潜在性:事故が表面化しないうちに、利用者の健康状態が悪化するケースもあります。
- 多面的影響:利用者本人だけでなく、家族、介護職員、施設など、様々な人に影響があります。
防ぐべき事故
適切なリスクマネジメント、環境整備、職員の教育・訓練によって予防することが可能な事故です。
介護マニュアルや手順書、注意事項等の引継ぎ内容を知らずに、あるいは忘れてしまって、介護現場に出ていたり、ご利用者を介助したりしたことが原因と考えられる事故などです。教育体制の見直しも必要になってきます。
例えば、廊下にこぼれた水をすぐに拭取らずにいて、ご利用者がすべって転んでしまったりとか考えられるリスクを取り除かないなどですね。
防げない事故
利用者の突発的な行動や予測不可能な健康状態の急変などによる事故です。
身体の急変に伴う事故を防ぐことは、なかなか難しいと思います。例えば、突発的な脳梗塞による意識障害により転倒・転落してしまうなどといったことがあり得ます。
いつも落ち着いて穏やかにテーブルについているご利用者が、突然立ち上がって席から離れようとして転んでしまったりすることもありますね。このような事故は、利用間もないご利用者で、アセスメントが仕切れていなかったり、ご利用者の行動パターンが、十分に把握できていなかったりする際にも起こり得ます。
こういった普段とは違うご利用者の情報については、介護記録に残すとともに、引継書等で全職員へ周知し、リスクを最小限に抑えることが必要ですね。
介護事故の原因・背景
介護事故の原因や背景を考える際の主な視点は、以下のとおりです。
- 利用者の状態:身体的・精神的な状態(歩行状態や認知症の有無・程度など)
- 介護職員のスキル:介護技術の習熟度や経験など
- 施設の状況:住環境(手すりや床の状態、照明など)・用具・備品(車いす等)・職員の充足度など
介護事故の責任
介護事故が発生した場合(利用者がケガをしてしまったとき)に介護事業所が負う可能性のある責任は、大きく「民事上の責任」と「行政上の責任」があります。
民事上の責任とは、端的には「損害賠償」のことです。
現場では、損害賠償に対する意識の方が、断然強いと思います。
介護事故の内容や原因、家族への対応によっては、裁判となるケースもあります。
行政上の責任とは、介護保険法の指定取消などです。
事故の内容や原因によっては、事故を起こした職員が民事・刑事上の責任を問われる場合もあります。
あとがき
この稿では、介護事故の概要や捉え方などについて、お話しさせていただきました。
項目に関する詳細や事例などについては、別稿にて、改めて言及したいと思います。
【参考文献】
〇老人福祉施設等危機管理マニュアル:令和6年6月改訂 埼玉県福祉部高齢者福祉課
〇特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン:平成25(2013)年3月:株式会社 三菱総合研究所